日本医療・病院管理学会の第56回学術総会が2018年10月27日から28日の2日間、福島県郡山市で開催されました。

  今回のメインテーマは「人工知能(AI)・ICTが拓くヘルスケアサービスの未来」であり、AI・ICTが医療や病院のマネジメントにどのような影響を与えるのかについて多くの発表が行われました。

  近年、大容量のゲノムデータ解析が可能となることで、従来のpopulation medicineからpersonalized medicineへ、reactive medicineからproactive medicineへという大きな変化が起こっている現状について発表がなされていました。さらに、海外におけるAI技術を用いたヘルスケアビジネスとして、血液中の遺伝子データの解析によるがん早期検知、AIを用いた皮膚がんの画像判定、ウェアラブルデバイスを用いた心臓疾患の検知など、最先端の事例についても紹介がされていました。日本におけるAIの実臨床への実装については、AIエンジニアと医療者とのさらなる連携の必要性などについて活発なディスカッションがなされていました。

 その他、レセプトデータや公表データなどを用いた疾病負担分析、費用最小化分析、リスク因子の検討などの様々な研究発表も行われました。疾病負担分析では、都道府県別の疾病負担を算出するために医療費の地域差指数を用いて推定した手法の紹介がありました。また、抗菌薬予防投与のガイドラインを遵守した群と逸脱した群について費用最小化分析を行ったとする発表では、遵守群は逸脱群に比べ薬剤費用が抑えられ、術後感染発生割合が低いという結果が報告されていました。なお、この研究でガイドラインに沿った投与がされている症例が多い施設に入院した患者群を「ガイドライン遵守群」とした定義を用いた手法は大変興味深いものでした。末期腎不全患者の肺炎入院におけるリスク因子の検討を行った発表では、リスク因子として挙げられたBMI、意識レベル低下などの項目について、臨床的見地から活発なディスカッションが行われました。

 さらに、同一効能という条件でより安価な薬剤で代替するTherapeutic interchangeという政策による薬剤費用節減効果を推計した発表では、Therapeutic interchangeによる薬剤費の節減額は後発品切り替えによる節減額を大きく上回るとの発表がありました。医療経済学的な分析に基づく政策提言として大変示唆に富むものでしたが、一方で経済性のみを考慮するのではなく臨床上の必要性を十分に考慮することが必要であるとの重要な指摘もありました。

 医療政策や病院のマネジメントに関する様々な観点からの最新の学術的発表、ディスカッションが行われており、大変貴重な知見を得ることができました。

(文責:KA/KK)

会場
セッションの様子